だらしがない
こんばんは、チェスです。
時折、昔の本を読み返してみたくなって、買ってから30年近くは経つために、紙がすっかり変色してしまったシャーロック・ホームズの文庫本を、通勤電車の中で読んでいます。
一昨日だったかな、読んでいて、オヤ、と思うところがありました。ホームズの相棒であり、物語の狂言回しでもあるドクター・ワトスンが、ホームズの生活態度を「だらしがない」と非難している箇所がありました。それはまぁ普通に読み流したのですが、次のくだりで「私も、あまりだらしがある方ではないが」という表現がでてきて、首を捻ってしまったのです。「だらしがある」若しくは「だらしのある」などという表現は、現在我々はあまり使わないと思いますので。
「だらしがない」というのは、こちらは通常に誰もが良く使う表現です。国語辞典にも載っています。「しまりがない」ということで、服装についてよくいいますが、その他にも整理整頓ができていなくて、部屋の中が片付いていない乱雑な様子を、「だらしがない部屋だ」などとも言います。ワトスン先生はこの言い方を使っているのでありますね。しかし、「だらしがある」とは一般にはあまり言いません。
でも、仮にもドイルの小説を翻訳した翻訳家ですから、国語表現についても簡単に間違えたことを書き飛ばしはしないでしょう。
してみると、「だらし」という言葉があって、これが「ない」のが「しまりのない」様子ということになりましょうか。「だらし」があるのは、きちんとしているということになります。
「だらし」とは何ぞや、と考えてみます。
再び国語辞典を引いてみますが、ケチな辞典で、出ていません。
会社の小職がいる部屋に、大きな「広辞林」(広辞苑にあらず)がありましたので、ふたたび「だらし」を引いてみますが、やはり該当する言葉がありません。しかし、ふと隣を見ると「たらし」の項目に、「たらし=帯」という説明がありました。
「たらし」であれば「帯」のことなのです。
着物を着るときに、帯無くしては、きちんと着物を着ることはできません。袖を通して、前を合わせて、帯がなければ、だらりと着物が下がってしまいます。
「だらし」は「たらし」、つまり「帯」のことではなかろうか、と考えました。帯をきちんと締めなければ、しまりがないこと、この上なしです。ですから、ピシッと決まっておらずに、しまりが無い様子を、帯なしの様子に例えて、「帯なし」→「たらしなし」→「だらしなし」→「だらしない」という具合になったのではないかと推測いたします。結構良い線ではないかと自分では思うのですが、如何でしょうか。
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コメント
どうもちがうようですね。
http://www.kurashiki-med.or.jp/kojima/murayama987.html
ある朝、 外来で私の前に坐った中年の紳士がいた。 カルテをみると、 住所は山口県。 勤務先の会社も山口市となっている。 遠路をたずねてよく来てくれたもの……とエリを正して相対した。 「はるばる遠くからお訪ねいただいて……」 すると、 紳士は、 何をおっしゃる…と言わんばかりに軽く受け流した。 「いや、 ナニ…すぐ近くの会社まで此の間から出張できましたが、 カゼがも少しはっきりしないもので、 こちらの社長にたずねましたら、 先生のところに………と言われまして、 ついでに寄らせて頂きました。」 ◎ 「 だ ら し 」 「だらしない」 ということばがある。 子供の頃、 大人からしまりのない言動を指摘されるとき、 よく言われたものだ。 「だらしがないからそんなケガをするんだ。」 来院のたびに叱っていたら、 彼が言った。 「先生はボクの顔をみるとダラシナイ、 ダラシナイと言われますが「だらし」 って何んですか。」 「しまりのない人間をそういうのだ。」 ――とは言ったものの、 改めてそう言われると、 「だらし」 とは何か、 語原は何か、 ということは、 考えてみたこともなかった。
日本語には倒語という表現があって、 「話のタネ」 をひっくり返して 「ネタ」 といったり、 「素人」 (シロウト) を 「トウシロウ」、 「場所」 は 「ショバ」 となる。 「だらし」 とは 「しだら」 の倒語で、 江戸時代から使われたようだ。 「しだら」 とは辞書でみると、 行為の検束、 行為の始末、 とりしきりを言う、 とある。 そういえば 「しだら」 の頭に 「不」 をくっつけて否定形にすると 「ふしだら」 になる。 「ふだらし」 と言うことばはない。 「ふしだら」 ―― 「だらしない」。 ボクはこのことを、 鹿児島医師会の岡 良樹先生の著書で知った。
http://www1.sphere.ne.jp/mucci/mono/darashi.htm
さて、ここで「だらしがない」と言われている「だらし」とは何か?気になるので愛用の横書き辞書『辞林21』を引く
だらし…物事のけじめがはっきりしていること。しまり。
ということは、「だらしがない」=「しまりがない」になるわけで、「しまり」というのは、なんらかの応力状態にあるということで、私の主張するところの、「美しい」=「なんらかの緊張を保っている」を補足してくれるものと思われる。才能に恵まれた人の場合は、余分な力を使うことなしに、「しまりのある」状態に入ることができる。
投稿: 小野潤三 | 2004.11.29 15:18
こんばんは、小野潤三様。チェスです。
なるほど!「しだら」の倒語というのは気が付かなかった。
うーん、やはり人生、勉強のタネは尽きないものですなぁ。
貴重なるコメント、ありがとうございました。目からウロコが落ちました。(目に元々ウロコは無いですけどね。)
投稿: チェス | 2004.11.29 21:30